la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
迷える仔羊たちの輪舞
「おれはおれの活計(くらし)のために鯨を殺そうと、こんな危ない海へ出ているので、鯨の活計のために殺されようと出て来たわけじゃない」
(『白鯨』メルヴィル)


菜園♪

 ↑
プチトマト植え替えました。


引用は本文に関係なく、すべての働く人たちのために。

さて、方向音痴を自称する人は世の中にたくさんいて、誰もが自分の方向音痴がいちばん酷いと思っている。私もまたその例外ではなく、さすがに地図を持っていれば迷うことはないが、平面図と立面図を相関させるために地図を目の高さまで持ち上げて向こう側へ傾けたり、視点と方角を一致させるために曲がり角をひとつ曲がるたびに地図を水平に九十度回転させたりするので、同行者を案内するような場合はとても嫌がられる(恥ずかしいからやめて、と言われるが、他にどうしようもない)。

方向音痴にも幾つかのタイプがあって、戯れに分類してみると

①何も考えずにとりあえず歩き出してしまう。
②疑いながらも歩き続けた結果、とんでもない場所に出て途方に暮れる。
③正しいはずの道順をどこかで間違ってしまい、どこで間違えたのかが理解できない。
④正しい道順を知っていながら、近道をしようとして袋小路に入る。
⑤迷うことを必然と捉え、迷わないことにではなく迷うことに備えている。

となる。

①いわゆる「天然」の人たちは、意外にすぐ自分の間違いに気づく。はっと我に返って周囲を確かめるので、とことん迷って困り果てることは稀だ。ただし、ここには「偶然は常に自分の味方だ」と考えている非常な楽天家(すなわち確信犯的な方向音痴)も含まれるので、そうなると、迷惑するのはたまたま通りかかった新聞配達夫やタクシーの運転手である。
②このタイプの人々は常に「犠牲者」である。報われない努力をひたむきに続ける傾向があるので、こういう人々には常に誰かが寄り添って正しい方角を指し示すべきかもしれない。自らが加害者になることは滅多にないが、稀に、自滅に他者を巻き込むことがあるので注意が必要。
③自分は正しいと信じて疑わない、最もたちの悪い方向音痴。彼らは往々にして、間違ったことに気づいても戻ってやり直そうとはしない。さらには「似たような家ばかり並んでいるのが悪い」等々、他罰的な発言をするので始末に負えない。
④いわゆる「横着者」の類である。ただし、反省することを心得ていれば愛すべき存在になり得る。この種の人々は仕事においてある程度、有能であることも多い(横着は合理化の親戚のようなものだからである)。見かけたら手を差し伸べたい。
⑤用心深く、己を弁えた方向音痴。①の確信犯的方向音痴に含まれそうでいて決定的に異なっているのは、この人々が決して楽天家ではなく、限りなく悲観的な運命論者だという点だ。謙虚だが向上心に欠け、備えがあるので迷っても他人に迷惑はかけないと思われがちだが、備えそのものが「携帯電話はフルに充電しておく」という他力本願なものだったりする。

さて、原因はどうあれ、迷う人は迷う。どこででも迷う。
アフォリズム風に言うならば、「方向音痴とは、自分の現在位置を見失いやすい人々のことである」。彼らにあって、見失われるのは常に「現在位置」であって「目的地」ではない。たとえばサンテミリオンからポムロールに(注1)行こうとして道に迷ってしまった場合、解らないのはポムロールがフランスのどこにあるかではなくて、自分が今どこにいるかだ。ひょっとすると既に自分はポムロールにいるのかもしれず、逆に、方角を間違えて衛星地区(注2)のどこかにいるのかもしれない。葡萄畑に踏み込んで収穫間近の葡萄を一粒失敬して味見をしてみたって、それがオーゾンヌかペトリュスか(注3)、はたまた「何とかサンテミリオン」の無名シャトーかの区別はつかない(それどころかメルロかカベルネか(注4)の区別すらつかない)。

我が身を省みるに、①から⑤までのすべてに当てはまりそうな気がするが、限りなく①と②に近い⑤だと思う。ともあれ見失っているのが目的地ではなく自分の現在位置なのだ、という発見は、私にとって非常に意外な、また有益な発見でもあった。

私は今どこにいるのか?
驚くべきことに、私にはそれが解らないのである。

注1「サンテミリオン」「ポムロール」:ともにボルドーのワイン産地の名。ボルドーを縦断する川の右岸に位置するため、「ボルドー右岸」と分類される。メルロ種を主体としたコクのあるまろやかな赤ワインを産する。

注2「衛星地区」:サンテミリオンの周囲を取り巻くようにしてある、モンターニュ・サンテミリオン、リュサック・サンテミリオン、サン・ジョルジュ・サンテミリオン、ピュイスガン・サンテミリオンの4地区。まとめて「サテライト」などと呼ばれる。

注3「オーゾンヌ」「ペトリュス」:前者はサンテミリオンにある偉大なシャトー。後者はポムロールにある偉大なシャトー。ともにバカ高いので私には手が出せない。

注4「メルロ」「カベルネ」:ともに赤ワイン用の葡萄品種の名。「カベルネ」はここでは「カベルネ・ソーヴィニヨン」を指す。独断で言えば前者はラファエロ的、後者はダ・ヴィンチ的なワインとなる。

追記。ごく稀に、道に迷っても自己を見失わない剛の者がいるにはいる。彼ら/彼女らは、むしろ見知らぬ異界の迷路を喜んで突き進み、日が暮れれば路傍に軽々とテントを張って眠る。言わば、己の住処を常に携帯して歩いているわけだ。

目的が「地点」ではなく「状態」である人々。もしかすると、私が理想とするのはそういう強さかもしれない。
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Comment
≪この記事へのコメント≫
家庭菜園できる人、尊敬します!
(私はいつも愛情込めすぎて水を与えすぎてカビらせてしまうので)

サトさんは、天然の⑤だからかわぃらしいですよね(笑)
私は④と①を混ぜた感じです。
道を知っているけど、横着して近道しようと
何も考えずにとりあえず目の前にある道に
入り込む・・・そして迷子。

しかし有能ではありませんが・・・
2007/07/12(木) 20:54:40 | URL | さ。 #-[ 編集]
さ。さん、コメントありがとうございます。
削除対応遅くなってすみません。

うちの植物は結構ほったらかしです。台風明けにはサボテンの土に(カビどころか)コケが生えてきて難なくサボテンと共存しているので、今や砂漠か湿地か解らない状態です。

近道をする時にはペットボトルとカロリーメイトを携えて行きましょう。遭難しても生き延びられるように。
2007/07/18(水) 13:54:15 | URL | サト #-[ 編集]
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