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la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
ボージョレ・ヌーヴォーのほんとのところ
「生き残るには、こっちの頭なんか何の関係もないのよ。どっちの面の皮が厚いかということなのね。大学で学んだ倫理や正義を捨ててしまうということよ。」
(スキ・キム/『通訳/インタープリター』)


またまた今さらな話。
ヌーヴォー売りというのはどうせ先細りの商売だろう、というのは、たぶん正しい推測だ。
けれど、勤務先の酒屋では今のところ一年で最大のイベント、みたいなことになっていて、10月早々からスタッフ皆、予約の受注に奔走する。

どやねん。
と思う。
まあ、毎年そんな感じで「どやねん」と思いながら売るので、そこは歯ぎしりしながらスルー(歯ぎしりしてる時点でスルーできていない)。

いちおう自分用にも、「黒い果実」の香りがする、とコメントされていた変わり種(普通ボージョレ・ヌーヴォーには黒系ではなく赤系果実の香りが出る)を予約しといて、前の日から挽き肉と白いんげん豆の赤ワイン煮を仕込み、当日帰ってからブロッコリーとブルーチーズのポタージュを作り、チーズやら庭のトマトやら、いそいそ食卓を整えた(ヌーヴォーごときに張り切りすぎ)。

さて抜栓。
セルフ・ホストテスト。
面白い。
本当に黒系果実の、ブルーベリーやカシスを思わせる香り。
情報誌のコメント、嘘じゃなかった(今の職場は決して嫌いじゃないのだけど、情報誌に白ワインのコメントとして「ブルーベリー」と書いちゃうようなガッカリな側面もなくはない。その白ワインはソーヴィニヨン・ブランだったので、多分グースベリーの間違いだろうと思って上司にちらっと訊いてみたら、本社から「グースベリーは日本のお客様には馴染みがないという判断でブルーベリーとした」っていう、まさかの珍解答!! グースベリーとブルーベリーってカケラも似てないし、そもそも白ワインからブルーベリーの香りなんか出るはずない!)。

いや、ヌーヴォーの話だった。
外観はかなり青みの強い、「紫」寄りのルビー色、エッジがはっきりとピンク色。これは実にヌーヴォーらしい。
グラスを傾けると、ディスク(液面)がぎらっと光る。粘性がかなり強い。貴腐ワインなみにオイリー。
これは実にヌーヴォーらしくない。
再びグラスに鼻を突っ込むと、個々の果実を指摘できないくらいの、ごちゃまぜ甘々な果実香がぶわっ!と来る。
これまでヌーヴォーに感じたことのなかった香り。
完熟ブルーベリー(というかほとんどジャム)、完熟カシス(というかほとんどジャム)、キャンディ香というより昔ながらの「ドロップ」みたいな香り。
ヌーヴォー特有のチューインガムっぽさは、気のせいかな? という程度に、ごく微かに察知したような。

口に含むと、熟れた果実の甘味が真っ先に来る。軽く、舌が乾くような(キレイに言えばシルキーな)タンニンが後に続く。酸はほとんど感じられない。
面白い、と思う。
こんなヌーヴォー、今まで飲んだことない。

少し時間を置いて空気に触れさせてみる(というか、お腹が空いてたので食べるほうメインになっていただけ)。

次に口に含んだとき、うえっ、となった。
何だこれ。
めちゃくちゃ甘い。
残糖を感じるくらいに甘い。
退廃的なくらい甘ったるい。
ワインというより、カシスリキュールみたいな甘さ。
あり得ないほどの粘性の高さと相まって、これ何か添加してる? と疑ってしまう。
それも発酵前じゃなくて、発酵後に。

とは言え、確認する術は私にはない。
絶対なんか入れてる!と断言するほど、自分の味覚や嗅覚に自信はない。
そこでそれ以上飲むのを断念。

食事を終えて、グラスに残っていたのを自暴自棄にぐいっと呷った。
薄っぺらい酸味しかなかった。
ブルーベリーも残糖も何もなかった。

何だ???

えーと、たとえて言うならこんな感じ。
電車のボックス席ではす向かいに座ってる女の子が、化粧は濃いんだけど何か心惹かれるものを持ってる。何とはなしに色気を感じる。眼差しが深い、ような気がする。
ちらちら見てると向こうはすぐ気づいて人懐こい笑みを返してくる。話をしたそうな素振りさえする。
んでも、よく見るとふっくらした唇に思いきりグロスを塗ってる。ちょっと香水つけすぎ。ちょっと化粧濃すぎ。甘ったるいわ。これNG。
そんでしばらく目をそらしているうちに、向こうはもう後は家に帰るだけだしこんなメイクしてるの親にバレたらヤバいし、みたいな感じでするする化粧を落として、次に見たらそれ、10歳くらいの子供やった。
ていう感じ。
です。はい。

ある意味、珍しい貴重なワインだったけど。
このヌーヴォー、解禁当日めっちゃお客さんに勧めて売ってしもた。

美味しくないヌーヴォーでも、ヌーヴォーらしいヌーヴォーなら、私は薦める。「これぞヌーヴォー!っていう、王道なんです!」って言うのは、それは嘘にはならないし、お客さんを騙すことにもならないから。
でも、「どっかおかしい」としか思えないヌーヴォーを(知らなかったとは言え)勧めるっていうのは、「やっちゃいけないこと」だった。

ヌーヴォーなんやから、未然に防ぐのは不可能やねんけど。
そんで、ほんまはヌーヴォーなんか売りたくないねんけど。
そんなもんやねんな、酒屋の店員て。
と、珍しく関西弁まるだしで落ち込みました。
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