la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
戦場から遠く離れて
「歴史を知ることは世界で生きていくためのマナーです。」
(『ニッポン・サバイバル』姜尚中)


 姜尚中(カン・サンジュン)。今いちばん好きな有名人。聡明で真摯、敏感で厳しい。おそらく、私が「かっこいい」という言葉を真顔で冠する唯一の有名人だ。朝日新聞に載る文章やインタビューに共感するところが多くて、前々から気になっていた。難解そうな著書が多いので敬遠していたのだけど、気がつくと何やら母親が夢中になっていて、買ってきた本を貸し与えてくれたのだ。それが著者の自伝『在日』と、この『ニッポン・サバイバル』の二冊。後者はインターネット上で連載されていたらしいエッセイで、二冊ともかなり平易な話し言葉で書かれているのでとても読みやすく、吸収しやすい。

著者の姜尚中は熊本生まれの在日コリアン。早稲田卒の現職東大教授だ。だから頭が切れるのは当然なのだけど、こういう人がこういう思想を強固に持って右派・保守派を相手に論陣を張ってくれるというのは、私のような「なんちゃって左派」にとってものすごく心強い。この人がいる限り日本は大丈夫なんじゃないか、とまで思いそうになる。おまけに、雰囲気のあるストイックな風貌と渋い語り口で女性ファンが増えているというので、そういう意味でも貴重な存在だと思う。これまで選挙なんて行ったことない、という人が、たとえルックスからだろうとこういう人の言葉に耳を傾けて投票所まで足を運ぶとしたら、それはとても素晴らしいことだ。

もちろん私の言う「かっこいい」にも少々浮ついた気持ちが含まれていて、というのも、この人は50歳になってから運転免許を取って、ドライブしながらカザルスのチェロを聴いてたりするんだ(もちろんバッハの無伴奏。これはむしろ、カタカナの「カッコイイ」だけどね)。

さて、真面目な話、この『ニッポン・サバイバル』の章立てを幾つか紹介すると、
 「お金」を持っている人が勝ちですか?
 「仕事」は私たちを幸せにしてくれますか?
 どうしたらいい「友人関係」が作れますか?
という、一見とても私的で主観的に思えるコンテンツから始まって、後半は、
 なぜ今「反日」感情が高まっているの?
 今なぜ世界中で「紛争」が起こっているの?
と、一気に読者をパブリックな領域へと引っ張ってゆく。そして最後は、
 どうしたら「平和」を守れますか?
 どうしたら「幸せ」になれますか?
ときてお終いになるのだけど、これは本屋さんで大量に平積みされている類の「人生のハウ・トゥ本」とは明らかに一線を画する、非常に重要な本だ。

姜尚中はこの本で、どうすれば君たちの目をパブリック(公)=ポリティクス(政治)に向けさせることができるか、ということを試みている。

そう、私たちはあまりにも「私」ばかり見つめすぎているのだ。思考は内へ内へと向かい、私的な幸福に拘り、趣味や一時的な消費行動に走り、そこに自足して「公」=社会を見ない。

「他者に関心を持たないで、自分の幸せを社会や世界と切り離して考えること自体が、じつはものすごく非現実的です。」
「パブリックな価値について目利きする能力や感受性。それこそが本当の知性なのではないかと思っています。」

姜尚中はそう語る。

「大切なのは大きく“ブレない”ことです。感情の振幅が大きいのはとても危険なことです。」

私は少なからぬ自戒を込めてこの本を読み終えた。通勤電車の中で、行きと帰りのほんの一時間足らずの間に(この本を母親から受け取ったのは昨夜の8時過ぎだった)。

気の持ちかた次第で世界は良くなるという奇妙な言論を、姜尚中は「ココロ主義」と呼んで批判する。私が漠然と、気持ち悪いなあ、と思っていたその気持ち悪さの輪郭を、的確な言葉で描き出している。
憲法九条をどう考えるべきかという複雑な問題を、姜尚中は「憲法というのは到達目標であり、理念なのです」と説く。私が漠然と、何かおかしいなあ、と思っていたその違和感の輪郭を、的確な言葉で描き出している。

九条が時代に合わないから改憲しよう、という風潮の「おかしさ」が、その一言でくっきりと浮かび上がる。

本当に凄い。

このブログを見ている人で、今の世の中に少しでも疑問や不安を持っている人は、まずこの『ニッポン・サバイバル』を読んでみてほしい。姜尚中がすごく私の好みのタイプの男性だ、ということはこの際どうでも良くて、とにかく、この本は私に、マコンドの雨で溺死しかかってる場合じゃないよ、と教えてくれた。良くも悪くも、私を鬱状態から躁状態へ引っぱり上げてくれた。

だから、とりあえず皆、選挙には行こうよね!
スポンサーサイト
Comment
≪この記事へのコメント≫
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 
Trackback
この記事のトラックバックURL
≪この記事へのトラックバック≫
Designed by aykm.