la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
どくしょきろく④
久々に読書記録。


『奇術師のハンドブック』クレイグ・クレヴェンジャー(65点)
想像していたのとは違っていたけど、まあ面白かった(タイトルとブックデザインからミルハウザー的なものを想像していた)。何でもアーヴィン・ウェルシュがこの作品を絶賛しているとのこと、でも私としてはウェルシュの『トレイン・スポッティング』のほうがずっと楽しかった。

『マイノリティ・リポート』フィリップ・K・ディック(70点)
今さらながらディックの短編集。ブックオフで投げ売りされていて、いたたまれなくなって買ってしまった。ディックくらいの大御所になれば「外れかも」という不安がないので安心して読めるのだけど、「期待通り」というガッカリ感が否めない、何とも我儘な読後感。

『不思議な羅針盤』梨木香歩(85点)
これは実家の母からのクリスマスプレゼント。包みを開けた途端、思わず悲鳴を上げたくらい嬉しかった。ちょうどその日、兄の名を騙ってYさん(兄の妻とか義理の姉とかいう呼び方もある)が投稿した文章が雑誌『danchu』の読者欄に採用されて『danchu』の最新号が送られてきていたのが実家に回ってきていて(ああ面倒くさい説明)、そこに載っていた平松洋子さんの文章が「ちょっと良いな」と思っていたら、この本に平松洋子の文章に触れた素敵な一章があって、おまけに別の章で以前「どくしょきろく」に記したゼーバルトのことも書いてあったりして、すごく、自分の芯のところが「祝福」されているような気持ちがした。
冷静になってみると何だか「らしくない」タイトルだな(「羅針盤」という名詞がではなく、「不思議な」という形容と、そのふたつの幾らか浅薄な結びつけ方が)、と思うのだけど、これは連載誌からのお題だったらしい。でも梨木さんはこのタイトルを気に入っているようで、そう、この人は大抵のことを善意でもって肯定することのできる人なのだ(批判ではなく感嘆として)、とあらためて嬉しくなった。
梨木香歩という人は、底抜けに「繊細で優しくてまっすぐに善良」だ。映るものをあるがままよりいっそう美しく反射して見せる目というのがあるけれど、この人の目はまさにそれなのだ。
けれど今の私は、その優しさに触れた途端、ぷつんと何かの糸が切れて一人では立っていられなくなりそうだ。シロクマはハワイで生きる必要はない? 本当に? でも、ハワイにいるシロクマは、どこへ行けば良いんだろう?
今の私はこの人の語る優しさに、甘えてしまいたくなる。だからいっそう、辛い。

『天の光はすべて星』フレドリック・ブラウン(90点)
読むのは三度め、知人に貸そうかと思い立って、その前に読み返しておこうと。どこでどんな風に裏切られるかをあらかじめ知っていての読書だけれど、それでも面白い。これをアポロの月着陸前に書いたって、凄いなあとしみじみ思う。文庫新装版の解説はかなりどうでも良かったけど、唯一、このタイトルが「マイベスト・タイトル」にオンリストされるというところには共感。ただし「ロマンティック」という形容は的外れだ。ここで言われる「星」というのは、空想的な象徴としての星ではなくて一個の「惑星」とか「衛星」、見たい・知りたい・行ってみたい・支配したいという、どこまでも「男の子」的な星のことだから。それが欠点といえば欠点。どこまでも「男の子」のための物語だということが。

『シャンパーニュの帝国』ティラー・J・マッツエオ(70点)
こちらは兄からのクリスマス・プレゼント。鮮やかなヴーヴクリコ・イエローの装丁。クリコ未亡人ことバルブ・ニコル・ポンサルダンの伝記だ。ルミュアージュが彼女の発明だったとは知らなかった。でも、今のヴーヴ・クリコ・ポンサルダンのシャンパーニュは当時のそれとは別物で(当時のシャンパーニュは極甘口のスウィーツ的な飲み物だったのだ)、そうなると「当時のそれを飲んでみたい」という、あまり有意義とは思えない欲求が湧き起こってきて困る。

『夜中にジャムを煮る』平松洋子(80点)
前述の雑誌『danchu』で偶然、ほんの一編のコラムに触れたのがきっかけ。それは「待つ」ということについてのとても充実した文章で、「待つ」時間の過ごしかたとその大切さについて書かれていた(ビジネス書や何かでよく書かれる「隙間の時間を無駄にしない」などという強迫観念めいたものではなくて、「隙間そのものを尊重し、楽しむ」といった趣き)。
待つことのできない人は料理に向かない、という意味の一文に、「いらち」の私ははっとさせられた。焼くのも煮るのも、私はじりじりと付きっきりでつつき回してしまう(アクを取りすぎてすぐ煮汁が足りなくなる)困った性格で、タイマーが鳴るまで出来上がりをのんびり待てた試しがないのだ。
ずいぶん昔、JRの駅で落ち合ってそこからバス、という予定で待ち合わせた友人が「バスの時間に遅れる」と連絡してきた時、私は激怒して予定していたバスに一人で乗った。友人を待たずに。そもそも私は時間を守らない人が許せないし、「バスは一時間に一本しかない」と事前に伝えてさえいたし、一時間も遅くなったら現地で過ごせる時間がほとんどなくなってしまう。けれどその時、私の頭の中には「自分が行きたい場所」と「自分がそこで見たいもの、過ごしたい時間」のことで一杯で、「相手が望んでいること」とか「誰かと一緒に過ごす時間」、「誰かと体験を共有すること」は一切、眼中になかったのだ(基本的にそういう性質は今も変わっていないのじゃないかと、思わなくもないけれど)。あの時、「待たされる」ことに短気を起こすよりも、「待つ」ことを楽しめる大人の余裕があれば良かった、と、つくづく思う。
ともあれ「食」にまつわる文章は、何であれ、生きることの原点を思い出させてくれて楽しい。もし梨木香歩の『不思議な羅針盤』で触れられていなかったとしても、『danchu』で出会ったからには遠からず、私はこの人の本を手にしていただろうと思う。
楽しく、とても楽しく、読んだ。

『アシェンデン』サマセット・モーム(70点)
アシェンデン、優しいなあ。スパイ小説なのだから身も蓋もないくらい非情な側面もあるんだけど、その非情さが「触れない、踏み込まない」という前提のもとにさらりと流されてしまっているのが良い。軽妙洒脱、というのだろうか。モームは、他の作品をちゃんと読んだことがないけど、何となく「敢えて読まないでおこう」と思った(でもそのうち読んでしまうのだろう)。

『幽霊船 ほか一編』ハーマン・メルヴィル(80点)
恐いよ、バートルビー。
表題作はかなり読み応えのある海洋冒険譚で、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の番外編的に映画化してくれたら楽しいだろうな、と思う(モンティ・パイソンの、会計事務所だか地方銀行だかが暴走する無茶くちゃな短編映画をふと思い出したけど、内容は全然リンクしてない)。
それにしても恐いよ、バートルビー。いや、昔どこかで一度読んだことがあったのだけど、あらためて思う。これは戦慄のホラー小説だ、と。

『舟を編む』三浦しをん(75点)
最近、事あるごとに「読む本がない」と嘆く私を気遣って、職場の後輩が本を貸してくれる。畠中恵の『アイスクリン強し』(70点)に続いて借りた一冊がこれ。非常に嬉しくありがたく、ページを繰る。三浦しをんは娯楽作品と純文学作品の両方をそれぞれ高度に書き切るという稀有な作家で、「POPカルチャー界から送り込まれた文学界への刺客」と私は勝手に名付けている(でもこの人の純文学系作品を、私は「何となく後味が悪そう」とかそんな理由で忌避し続け、未だに読んだことがない。なのでここからの記述は飽くまで娯楽作品に限っての感想)。あらゆる文化を貪欲に/軽々と吸収し、極上のエンターテイメントに織り交ぜてしまえる人。読んでいると声を立てて笑ったり、感動してちょっと泣いちゃったりもする。そしてこの『舟を編む』はブックデザインがまた、心憎い限りなのだ(終盤になって初めて気づく)。
読書体験としては違和感を覚えるほど漫画的/TVドラマ的な、「キャラクターの造形」や「演出」や「テンポの良さ」が少々「できすぎ」な感じはあるけれど、それも稀有な才能だ、と思って感服する。

と、この辺りで早くもネタ切れ。
最近、本をあまり読んでいないので。
その代わり(?)レンタルDVDで映画を渉猟しているので、そのうち「えいがきろく」をつけるかも、です。
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