la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
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人待ち顔のアリアドネ/テセウス異聞
迷宮。石造りの。鈍色をした冷たい壁にきらきらと石英が光る。
はるか頭上に穿たれた小さな採光窓から、月光が洩れている。
手の中には白銀の糸玉がある。そこから伸びた細い糸の先端は、迷宮の入り口の扉に結ばれている。
白銀にきらめくその糸は、か細く、それでいて強く、いかにも誘惑的だ。
脅迫めいて。
いっそ狡猾なほど。
肩に負った深手に、冷たく湿った夜気が染みる。半ば凍え、彼は体じゅうの関節を軋ませながら、手から伸び暗闇へ溶けるその糸を目で追う。
この糸をたどれば、俺は生き延びることができる。
だが、本当に?
外には彼女がいるだろう、人待ち顔のアリアドネが。
彼女の目に不安は宿らない。気のない様子で時折、迷宮の入り口を見やる。
夜の寒さに両肩を抱き、小さな声で歌う。
 これであなたはわたしのもの。
 それこそが逃れられぬさだめ。
白銀の糸はいよいよ蜘蛛の糸に似て、手繰り寄せるその手に絡まる。
闇の奥底から、彼を浸している迷宮の闇ではなく彼の胸に沈む内なる闇の奥底から、鋭く囁く声がする。
 その糸を切れ。
 切って終え。
血の滲むようなその声はごく低く、それでいて強く、いかにも確信的だ。
神託めいて。
いっそ邪悪なほど。
自由の効かぬ両手で短剣を引き抜くと、彼はその柄を口にくわえ、自分を引き寄せ縛めつつある糸に刃を当てる。恐怖よりは怒りのために、その刃先は小さく震える。
だが、彼は迷わない。
人待ち顔のアリアドネ、おまえが俺を追って来るなら、そのときは応えよう。
ついに彼は白銀の糸を断ち切り、短剣を迷宮の床に振り捨てる。
迷宮の壁に背を預け、目を閉じて闇にその身を浸すと、冷えた汗が首を伝う。

そしてテセウスは闇に留まり、再びアリアドネにまみえることはない。
追記。
私はギリシャ神話が苦手だ。
北欧神話やケルト神話は、オペラや小説の世界で触れた限りでは悪くないイメージを保ってるけど、ギリシャ神話は果たして真面目な顔をして読むべきかどうか、心底悩んでしまう。全能神はひたすら無節操な好色爺だし(女性をモノにするのにわざわざ動物に化けたり「雨に化けて隙間から降り込む」なんていうおバカな手段を取ったり、全能の神様なんだからもっとスマートな方法があるだろうに、と思う)、女神がちょっと水浴びを見られたくらいで怒り狂って相手を鹿に変えたばかりか犬に喰い殺させたりするし(アクタイオンだっけか、まあ覗くやつも覗くやつだけど、何もそこまでしなくてもね)、神様たちの不義密通とか暴虐ぶりが延々と暴露されているだけの物語。
『ヘラ「もう耐えられない!」夫ゼウスの度重なる浮気にブチ切れ!』
とか、
『テセウス、最愛の妻を異国で置き去り!「つわりがひどくて…」』
とか。
これはもう、「低俗なゴシップ記事」以外の何ものでもない。
仮にも「神様」なのだから、もう少し、尊敬に値するキャラクターであってもいいのじゃないかと思う(まあその昔、神様というのは善意や倫理の象徴ではなくて「自然現象」の象徴だったのだから、気紛れで暴虐なのは仕方ないのだけど)。

じゃあ好きな神様はいないのかって、うーん、牧神パンは結構好きだな(上半身人間で下半身山羊、それじゃかなり不便だったろうと思うのだけど、笛吹いて皆を楽しませて自分も楽しく暮らして、怪物に襲われた時に魚になって逃げようとしたらうまく魚になれなくて、下半身魚で上半身山羊になっちゃって、そうやってあたふたしてる姿に神様たち大爆笑、その姿を「山羊座」として永久に夜空に展示されることになったという、陽気で不器用で不運なヤツ)。

ちなみに、これを書くにあたって事実確認はしてないので、記述に曖昧なところや事実に反するところがあるかもしれません。何とぞご寛容に。
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