la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
ただ君のことだけを
「この作品はフィクションであり、実在するいかなる人物・事件とも関係がありません。」
(よく見かける注釈。まったくの空想の産物であるわけがない物語に限って付与される)


僕は君との別離をたった一日で準備した、というのも、僕に与えられた時間はそれきりだったから。
それでも僕の準備は周到だった。花屋で花束を買う時に、短めに切って小さく束ねてくれと頼みさえした。祈るような気持ちで震える息を吐いていた僕は、花屋の店員がそれを恋人への贈り物だと誤解することを望んだのか望まなかったのか、今となっては思い出せない。ただ恋人に深紅の薔薇の花束を贈る男にしては些か妙な出で立ちをしていたから(本来そんな格好で花屋に出かけたならば白い花を買うべきなのだ)、少しは訝しく思われたかもしれない。

僕は決然とした態度で、まるで喧嘩相手の家へ乗り込むような身構えで、花束を手に君のところへ赴いた。いや、君のところではなく、君のいないところへ。

その一幕は欺瞞だらけの茶番だった。悲しみではなく抑えがたい怒りに満ちて、僕はもう少しで理性を失いそうになった。そこにいる全員に向かって、誰が駒鳥を殺したのか、と問いたかったのだ。

けれど、答えは解っていた。

あの日のことを、僕は切れ切れに、それでも鮮明に覚えている。
彼らの前に立ち、何であれ彼らの前で語ることを、僕ははっきりと拒絶したはずだった。けれど、僕の拒絶は黙殺されたのだ。
僕は怒りに満ちて口を開いた。
誰が駒鳥を殺したのか。
その問いを放つ代わりに、僕は祈祷書の一節を読み上げた。祈りとしてではなく、神への糾弾として。

あの日、僕は初めて神を敵に回した。
今でもそうだ。
僕は神を信じない、けれど、信じていればどれほど良かったろうかと思う。
僕は僕の怒りや憎しみを神に向かってぶつけながら、その相手の存在していないことを悟っている。
つまり虚空に放つようなものなのだ、僕のこの怒りも、憎しみも。

僕は神を信じた、君が神を信じた時に。
本当に、他愛もなく僕は信じたのだ。

苦しんだのは君だ。痛みを受けたのは君だ。
それなのに、僕には君さえも憎い。
君が僕を捨てたこと。理由も言わず、別れも告げず、何も残さず消えたこと。

君の選んだものを、僕は責めない。
けれど、せめて何か一言、僕のために残してくれても良かった。

けれど多分、と僕は思う、君は僕を憎んでいたのだろう、と。

いつまでも、絶えることなく、友達でいよう。
今日の日は、さようなら。
また会う日まで。

僕から君へ残した言葉は、君にとって欺瞞に満ちた茶番そのものだったかもしれない。
そんな言葉と深紅の薔薇の花束を、僕は君に贈ったのか、それとも押しつけたのか。

君に拒絶する術はなかったのだから、いっそ何も贈らないほうが良かったのだ。

あの日の茶番のすべてを通して僕に後悔していないことがあるとしたら、それは君との約束通り、君を罵ったことだ。
馬鹿、と。
誰にも聞こえないように、僕は声には出さずにそう言った。
馬鹿、と。

もう一度、君と話がしたい。
もう一度、君に会いたい。

あれからずいぶん月日が経ち、僕は今でもまっとうに生活しているけれど、それでも君を忘れたことは一度もない。
何かに抗議するような、そう、侮蔑や悪態ではなく、他者に対する「問い」を発したがっていた君の口元を、僕ははっきり覚えている。

「また会う日まで」。
そんな日が永遠に来ないことを、僕は知っている。
もしそんな可能性があったとしても、君はそれを望まないだろう。
君が求めたのは「解放」なのだから。
君が逃れ去った世界の中に、僕もまた、はっきりと含まれているのだから。

誰が駒鳥を殺したのか?
その問いは君の口からこそ発せられるべきで、決して僕が口に出して良いものではない。

僕はただ、本当のことが知りたい。
そして、語り得るのは君だけ。

もう一度、君と話がしたい。
もう一度、君に会いたい。

今日はどうしようもなく、君のことを考えている。
どうしようもないことだと、解ってはいるのだけど。
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≪この記事へのコメント≫
探偵GODです
はじめまして探偵GODです。
これは勉強になります。
2012/12/09(日) 06:04:05 | URL | 探偵GOD #mQop/nM.[ 編集]
おはようございます。
このメタファーを正確に読み解く事は出来ないですが、こういう創作する時って結構重たい時多いですよね。(俺だけかも知れないですが(汗))

何はともあれ、お疲れ様です。
次はリフレッシュタイムでどうですかね?
2012/12/10(月) 11:02:51 | URL | pac #njqubW3Q[ 編集]
はじめまして探偵GODさん。
ミステリのいかなるトリックとも無縁なこのエピソードを読み説くなら、どんな解題があるでしょうか?
2012/12/12(水) 19:52:13 | URL | サト #-[ 編集]
pacさんいつもありがとうございます。
メタファは一切ありません。
99.9%事実です。
だからこそ心が沈むんですが・・・一応、浮上の試みとして、次の記事をUPします。
2012/12/12(水) 19:57:59 | URL | サト #-[ 編集]
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