la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
深い水底で、揺らぐ物語たち
「人は暗いところでは天使に会わない。」
(『アンヌンツィアツィオーネ』山尾悠子/掌篇集『歪み真珠』所収)

やっぱり買ってしまった。
以前『琥珀捕り』のことを書いた時に「買ってしまおうか」と独白していた、山尾悠子の本。

それでも買ってからひと月ほど読めずにいたのは、その装丁のせいだ。
紙箱入り。表紙は布貼り。その表紙を包んでいるのは昆虫の翅を思わせる、薄くてぱりぱりした、半透明なパラフィン紙のカバー。

手を触れるのが怖かった。

そこに描かれている世界と同じほどに危うく美しい。

今の日本の作家で、これほど豊かで恐ろしくも美しい言葉を紡ぐ人が他にいるだろうか?

何となく思い浮かぶのは多和田葉子くらいだけれど…いや、違う。

山尾悠子は、特別なのだ。

『歪み真珠』の中でも、すべての暗示の色合いが最後の一文で一変する『アンヌンツィアツィオーネ』がとりわけ好きだ。
謎めいたエピソードの断片で綴られる『娼婦たち、人魚でいっぱいの海』、圧倒的な印象の『美神の通過』、何故かしら唇の端に笑みの浮かぶ『影盗みの話』…。

どれもこれも、凄い。

ずっと読んでいたいけど、パラフィン紙のカバーやページをいためるのも嫌で、またそっと本棚に戻す。

その本が私の本棚にあること。
小さな宇宙が、その中にあること。
それを意識しながら、私は眠る。

その本の中では、私が取り出して読んでいない間も、人々が眠り、目覚め、また眠るのだ。

ほとんど魔法。
もし魔女狩り最盛期の中世ヨーロッパなら、山尾悠子は間違いなく火刑だ。

それぐらい、特別なのだ。
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