la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
あの夏を、おまえは生き延びた!
ルチェンテ‘01 (イタリア、ルーチェ・デッラ・ヴィーテ)

 ワインの話。
 とある酒屋の、空調のない倉庫で、ひと夏を越したワインの話だ。

 とある酒屋、というのは、私の働いている会社が経営するディスカウント・ショップ。秋ごろ、劣化したワインを販売してお客さんからクレームがついた。そこで私とシニアソムリエの資格を持つ“師匠”が店に赴き、ストックヤードの商品をテイスティングすることになったという経緯。
狭い狭い事務所で向かい合ってパイプ椅子に座り、間に清掃用の半透明なポリバケツを置いて(それだけで事務所はいっぱいいっぱい)、机に並べたワインを片っ端から口に含んでは・・・バケツに吐き出す。吐き出されたワインは非常にきたならしくて、白と赤が混ざるとゾンビの体液みたいになるのだけど、でも店には半透明のバケツしかなかったし、まあ仕事なんだからしょうがないよね。
 白は大半、劣化していた。苦酸っぱくて胃の中身まで吐きそうになったワインもあった。赤も、劣化、劣化・・・。そして、終盤に控えていたサルジェ・ド・グリュオー・ラローズ。私は“衰弱”の判定をしたけど、師匠は口に含んだ途端、にんまり。「熟成のピークから、ほんの僅かに落ちかかってるだけ」。サウナのおかげでスピード熟成したのらしい。でも私は何だかやるせない気持ち。
 最後のアイテムはルチェンテ。これがやられていたらもうどれも売れないだろう…と、グラスに注いだ途端、黒い果実の香りが漂う漂う。

 ・・・強い。
 本家ルーチェとは比べ物にならないのかもしれないけど、それでも強い。
 テイスティングを開始しておよそ一時間半、私は初めて、心の底からにっこりした。
「師匠、すごいです、これ」
 こうなってはもう吐き出せない。ルチェンテの最初の一口はゆっくりと喉に落ちてゆき、私は余韻を確かめながら感嘆のため息をついた。

 あの夏を、あの虐殺を、おまえは生き延びたのだ。
 無為に手をこまねいて劣化させてしまったワインたち。衰弱させてしまったワインたち。ゆっくり重ねるべき歳月を無理やり飛び越えさせてしまったワインたち。
 本当にごめん。
 そのワインを造った人たちにも、ごめんなさい。
 もちろん、劣化したワインを買ったお客さんにも・・・。
 
 ルチェンテ、持ちこたえてくれてありがとう。ワイン界のグローバリゼーションを告発した映画『モンドヴィーノ』の批判はもっともだし、あれを観て以来、私は安直にミシェル・ローランとモンダヴィを避けがちになったけど、それでも、おまえは素晴らしかったよ!
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