la petit cuvee

“プチキュベ”と、舌ったらずに発音して下さい。 くれぐれも、「ヴェ」と下唇を噛まぬよう・・・。
ツグミの歌が聴こえる頃には
「もしこれが、いままでに一度も見たことがなかったものだとしたら? もし、これを二度とふたたび見ることができないとしたら?」
(『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン)


これはワインと向き合うとき、いつも思い出す言葉。
「センス・オブ・ワンダー」とは、不思議さや神秘性に眼を見張る感性のこと。

善きものに対して真摯に向き合うことは、確かに精神の歓びだ(サルビア、矢車草、マリーゴールド。淡いレモンイエローの奥にぽたりと濃紫の染料を落としたような色っぽい花は、そう、オクラの花だ。その向こうには立ち枯れた向日葵、夏の終わりの象徴として。それからペチュニアに松葉牡丹、わお、白いサルビアだ、初めて見た)。けれど、その感性は私の脆弱な神経にとっては諸刃の剣で、存在するすべてのものが善きものであるはずのないこの実世界においてそれは過敏さと同義になり、それゆえに私の脆弱な神経は傷つき疲弊せざるを得ない。

だから何だって、つまり、ええと。

どうやら私は適度に鬱状態でないと物が書けなくなってしまうらしく、9月に入ってから本当に思考がまとまらない(今回の更新では実はカーソンについてしっかり書こうとしていたのだけど、周波数の合わないラジオみたいにざわざわしてうまく思考のピントが合わない)。JIS規格キーボードを叩くのは私にとって鍵盤楽器を弾くのと似た歓びであったはずが、タイピングに思考が追いつかない(逆ではなく)という奇妙な現象が起きていて愕然とする。

ついでに本も読めなくなっていて、こんな時に読みかけなのが専門用語&造語満載のスチームパンク小説(ギブスン&スターリングの『ディファレンス・エンジン』)で、とてもこれ以上は続けられそうにない。仕方ないのでスティーブン・キングなぞ手にとって『図書館警察』を読み始めてみたのも失敗だった。読む度に思うのだけどキングってあまりにアメリカ的で、そう言えばコーラにもホットドッグスタンドにもロックンロールにも縁のない私はこの大作家が苦手なのだったっけ。

うーん、何なら読めるのかなぁ。
とりあえず、この秋の課題図書は八犬伝だ。
これは何年も先延ばしにしてた課題で、というのもテキストが沢山ありすぎてどれを選べばいいのか解らなかったからだ(もちろん原書は論外)。いま二つに絞って迷ってるのは勉誠社の現代語訳と偕成社のジュブナイル版。どちらか、図書館で先に見つかった方を読もうかな。
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最新式スターシップの迷走
「君のダイヤモンドが素晴らしいのは知ってる。でも、僕は僕の貝殻セットをそれと取り替えたいとは思わないんだ」
(『クラッシュムーン』岡谷壮太)


たまごの黄身をそっとコップの底に落として、トマトケチャップとウスターソースをほんの少量ずつ加え、上から粗びきの黒胡椒をたっぷりふる。
プレーリー・オイスター(野生の蛎蠣)、二日酔いの特効薬。あの執事ジーヴスが雇い主ウースターのために作ったのは、きっとこれだったに違いない。

飲むときは黄身を崩さないよう一息で。もちろん、それだけで頭痛や吐き気がきれいに治まるわけではないけれど、地獄みたいな二日酔いにもささやかな希望の光が射す。

だけど、その後に激烈な腹痛が襲ってきて頭痛と吐き気と三つ巴の大喧嘩を始めた場合は、希望の光もどこへやら、…。

でも大丈夫。それは二日酔いじゃないから、君は大手を振って具合が悪そうにしていればいい。バファリンの半分が優しさで出来ているのと同じ理屈で、二日酔いの半分は疚しさで出来ている。二日酔いでないと解った時点で、その疚しさは捨てて良いのだ。

君は嬉々として布団にもぐり込み、己の苦痛と戯れる。
カルテには「ヘビーストマックエイク」とだけ記されるのだろう腹痛を、いろんな言葉で表現してみる。
① 自分の鳩尾の少し下を狙って、力いっぱい千枚通しを突き刺す。
② 胃袋を細いテグスでひと巻きし、そのテグスの両端をぎゅうっと引っぱる。
③ 巨大なアメリカザリガニが、片方のハサミで胃袋にしがみついてぶらさがっている。

そこまで考えて、君は満足して寝返りをうつ。
幸福な夢など望むべくもないが、それを気に病んだりはしない。つまり、君は君の貝殻セットを誰かのダイヤモンドと取り替えたくはないのだ。たとえその貝殻セットの中に、疚しい二日酔いやとびきりの腹痛や、遣り切れない憤りや切ない別れや何かが紛れ込んでいたとしても。
絶望との決別
泳ぐのに飽きてプールから上がるのとさして違わない気軽さ。濡れた犬みたいに身を震わせて絶望の残滓を振り払うと、肩の上で眩いプリズムが弾ける。
明るい空に向かって顔を上げた途端、胸の奥で響き始めるのは『フィガロ』の序曲。他のどんなオペラのより浮かれた序曲だ。私はケルヴィーノそこのけの無邪気な軽薄さでもって、あらためて世界と対峙する。

さて、何を書こうとしてたのだっけ?
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